主人公は神様の暇潰しや手違いなど、兎に角神様の力が働いてトリップする羽目になったごく普通の子。
ごく普通な子であるだけにトリップになんて欠片も興味はないし、現状に特別満足していなくても、特別不満がある訳ではない子です。
で、ここで一度考えて欲しい。
例えば神様が退屈だったからとかうっかりミスしてしまったからとか言って、簡単に『今の』生活や命を奪われても、あなたは赦せますか?
そんなのは出掛け先で偶然通り魔に遭って殺されるとの、同じだけ理不尽なことだとは思いませんか?
世界を創造した神と言えど、そのような所業が赦されると思いますか?あなたには赦せますか?
普通に考えたらそんなこと、赦せるはずがありませんよね?
だから勿論、ごく普通の子である主人公にも赦せませんでした。
夢小説の主人公によくある割り切りも開き直りもできず、主人公は神様を呪ったのです。
そして暇潰しの場合は面白半分。うっかりミスの場合は罪悪感から与えられた所謂特典で、主人公はこう願いました。
「だったら、アンタが持ってる“神様の力”を全部わたしに頂戴」
主人公は事前にどんな願いでも叶えてくれるのか確認し、また肯定の返事をした神様に決して違えないことを約束させていたため、神様には主人公のこの願いを断る術がありませんでした。
こうして神様は力を失い、力を失ったために神様ではなくなりました。
敢えて言うなら、主人公が新しい神様になったのです。
けれど、これだけでは主人公の怒りは収まらず、主人公が最初に使った“神様の力”は、神様を人間の世界へおとすことでした。
『今の』生活を理不尽な理由によって突如奪われた自分と同じように、神様から『神様の』生活を奪ってやったのです。勿論文句なんて言わせませんし聞きません。
主人公の身に降り懸かったこの件が偶発的だろうと意図的だろうと、自分がどれだけ理不尽なことをしたのか骨の随にまで知らしめてやらなければ。
それだけ理不尽なことをしたのだから、神様と言えど当然の報いです。
けれどいくら復讐したところで、主人公が失った『今の』生活は決して戻るものではありません。
つまり遺した者も遺された者も、奪った者も奪われた者も。誰一人として、幸せになれる者はいないのです。たとえ“神様の力”を揮ったとしても。