主人公は幽霊が視(み)えるのは勿論、一目見ただけで相手に霊感があるか否かや、遠くで起こった霊的事象なんかがわかっちゃう人。
そんなんだからホラーの王道的に、強過ぎる霊感の所為で小さい頃から沢山辛い目に遭って来たっぽいけど、実際はそんな経験は欠片もなく。
主人公は幽霊の存在を認識できるし声を聞けるし触れられるけど、幽霊には主人公の存在は認識できないし声を聞けなければ触れることもできない。
だから主人公は自分から首を突っ込まない限り、霊的事象に遭遇しないし、そもそも遭遇したことがない。
日常的にグロい格好の幽霊を視ることはあるけど。
因みに主人公に触れているか、主人公の身体の一部(髪の毛とか)や主人公がある程度の時間身に付けていた物を所持していれば、所持者にも同じ効果が。
但し接触の仕方によって効果の効きは違うし、主人公に触れている以外は時間が経つと次第に効果がなくなるけど。
そんな主人公が幽霊に追われてピンチだったキャラを助けたことで始まる話。
だけど一度怪異に触れた者はその後も怪異に遭いやすくなるってことで、結果彼らが主人公にべったりになり、ヘタしたら依存色が強い病み系になるかもしれない話。
▼そんな訳で、何となくのチョイスで謙也をピンチにさせてみた。(酷い)
「静かに!」
引っ張り込まれた路地の壁に身体を押し付けられて、驚いて悲鳴を上げた俺の口を手で覆って塞いで来たんは、同い年くらいの知らない女子やった。
せやけどその子の視線は俺やのうて、俺が元いた通りに向いとる。
つられてそっちを見ると、赤黒く染まっとるワンピースの裾からぴちゃぴちゃ血を滴らせる女の、多分血で濡れて湿っとると思われる髪の間から覗く血走った眼と、目が合った。
「――― ッ!!!」
言葉になり切らへんかった悲鳴が出た。
そしたら、さっきまで浪速のスピードスタートでも振り切れへん速度で人のこと追い掛け回しときながらや。目が合ったはずやのに、まるで俺のことが見えてへんみたいに素通りしようとしとった女が足を止めて、こっちを振り返った。
びちゃ、びちゃ、びちゃ……。
歩くたんびに濡れた足音をさす女が、路地に入って来た。
そして心では今すぐ逃げ出したいと思っとるのに、身体が全く言うこと聞かんで固まるしかあらへん俺の方に、女を避けるみたい寄って来た女の子のすぐ後ろを、女が通り抜ける。
びちゃ、びちゃ、びちゃ……。
女はやっぱり俺らが見えとらんのか、そのまま夕闇に紛れて見えへんようになった。
その瞬間、糸が切れたみたいに力が抜けて、俺は壁に背中を擦り付けながら、ずるずる座り込んだ。今更になって身体が震えて来よって、あかん。泣きそうや。ちゅうか泣いてもええ状況やよな、間違いなく。
せやけど目の前におる女の子は俺の口を塞ぐ手を離してくれへんくて、何や泣こうにも泣けへん。
「喋らないで。安心するのはまだ早いよ」
離してくれへんかって、俺が口を動かそうとしたら、女の子は突然そう言った。
「彼女はまだ君を諦めていないよ。君が少しでも声を発すれば、すぐに戻って来る。逃げ切るには彼女に見つからないように家に帰ること。帰ったらすぐに、食用でいいから塩を掛けて身を清めること。OK?」
口調は淡々としとるのに、言っとる内容はごっつ恐ろしかった。
俺は蒼褪めながら何度も頷いた。
「よし。じゃあ手を放すけど、今言ったように絶対に声を出さないこと。それからわたしと手を繋いで、何があっても決して放さないこと。どちらか一つでも破れば ――― 君、死ぬよ」
ぜ、ぜえええぇぇぇぇぇったいに喋らへんぞ!! 手やって放さへんぞっ!!!
▲基本的には鈍感で何の害意も受けないけど、碌でもない系統の霊とは波長が合っちゃう霊媒体質の謙也。
そしてこれをきっかけに、些細な害意にまで見舞われるようになって、それはもう大変な目に遭う謙也でした。ちゃんちゃん!